コロナ病床は簡単に増やすことが出来ない、という話。 [番外編]
(この記事について)
この記事は、新型コロナウイルスに感染した感染者のうち、中等症以上の入院用ベットが増やせない理由を取り上げた記事です。なお、医学的な見地からの意見ではなく、あくまでも個人的な見解です。
(東京都における満床状態)
2021年1月6日19時45分現在の東京都が発表した資料によれば、東京都内における感染状況は以下の通りとなっています。
入院中:3,090(重症者113)
宿泊療養:924
自宅療養:4,901
入院・療養等調整中:3,516
現在、コロナ病床として東京都が確保している病床数は、3500床です。患者の平均入院期間を14日としても1日250人の新規患者の受け入れが限界となります。
東京よりも医療サービスが貧弱な神奈川県、千葉県、埼玉県での患者急増もあり、完全に満床の状態に突入したと判断して良い状態になっています。
(コロナ病床を設置するためにはいろいろな準備が必要)
コロナ病床を設置するためには、各種報道や資料などから下記のような準備が必要となると予想されます。
1)医療スタッフ(医師、看護師、医療技師等)に対する感染予防(専門教育)の実施。
2)コロナ治療に必要な薬剤、医療機器の設置、増設。
3)医療資材(ベットシーツ、防染衣、医療用マスク、使い捨て医療器具など)。
4)人員の配置。
5)病室、換気装置の工事(感染予防として)。
6)霊安室、遺体保存用冷蔵庫の増設。
7)特別予算の確保。コロナ関連事務担当者の配置。
(通常の病院機能について)
本題に入る前に病院(第2次救急レベル)の持つ主な機能は、以下の通りです。
1)外来診察(平日、休日に診察により病気や怪我の状態を診断したり、投薬を処方する)
2)入院治療(経過観察、投薬治療、手術など)。
3)リハビリテーション(体力の回復、筋力の回復を目指す)。
4)救急救命(緊急治療、緊急手術)。
5)検査、解剖、研究部門。
上記の部門に医師、看護師、医療スタッフ、事務スタッフを配置し、予算と作業場所(病室を含む)を割り当てることで病院として機能を働かせています。
それでは、大きな課題から検討していきたいと思います。
(大戦略の策定)
まず検討しなければならないのは、感染症に対応出来る医師、看護師を確保できるかどうかです。
医療スタッフにも専門分野、得意分野があります。感染症についての対処ができる医療関係者を多数確保する必要があります。
例えば、10病床増やす場合、看護師を8時間勤務4交代としても最低4人できれば6人配置する必要があります。医師も最低1人増やす必要があります。検査や作業支援の医療スタッフも必要です。
上記の部署から人を移動させると元の部署の業務が過負荷になります。通常診察を中止したり、コロナ以外の入院制限を実施する必要があるでしょう。
そして、最大の問題は、病室の工事やコロナ関連の医療資材、医療機器の購入代金をどうやって工面するかです。政府や自治体から補助金が出る場合でも条件面を精査する必要があります。赤字のまま、患者のことだけ考えて行動すると、病院が赤字倒産する危険性が出てきます。
上記にも記載しましたが、遺体保存用冷蔵庫は、特殊用途のために金額も高額ですし、電気代も非常にかかります。患者急増=>遺体急増となる可能性があり、その費用や工事、搬出先との連携も重要となります。
(従来の治療中(療養中)患者の安全確保)
コロナ患者を受け入れない病院に対して批判する人がいます。しかし、コロナ患者を病院の一部で受け入れる、ということはクラスター感染の確率を高めることになります。
入院中の患者の多くは、感染症に対する免疫力が低下している場合が多いと思いますので、コロナ患者を受け入れることは大きなリスクを背負うことになります。
病院内で大規模なクラスター感染が発生した場合の鎮圧方針を具体的に明確に出来なければ、その病院でのコロナ患者の受け入れは難しい、と判断できます。
(他部署からの転任で感染症治療に対処できるのか?)
十分な訓練期間も訓練機会も無いままで、一般診療や病床管理を行なっていた医師、看護師をいきなりコロナ患者の対処に投入しても良いのか?、という倫理的な問題があります。
筋を通すなら、座学と実技、検定試験を行なって、コロナ患者に対する対処を適切に行うことが出来ることを確認してから行うべきところです。現場で業務を通して覚える(いわゆるOJT)には、感染するリスク、感染した後の後遺症などのリスクを考慮すると、リスクが大きすぎるでしょう。
(外来診療を中止しても良いのか?)
一般外来診療を中止したり、制限すると、他の病院の外来診療に患者が殺到するリスクが発生します。また、診断が遅れて病気や怪我がひどくなることも予想されます。
日本は後期高齢者が急増する直前の状態です。コロナが無くても外来診察を受けたい患者が増加する傾向になっているはずなので、外来診療を制限したり、中止したりした場合、その地域の医療サービスレベルが低下することが予想できます。
(一般入院ベット数を削減してでもコロナ病床を増やすべきか?)
一般病床を減らして、コロナ病床にする場合、物理的なベットと病室を転用することは工事さえ出来れば、可能でしょう。問題は、対応する医師や看護師を確保できるかです。
医師、看護師の増員が出来ないなら、一般病床の担当医師や担当看護師を割り当てることになります。しかし、コロナ患者は一般患者よりも看護を手厚くする必要あります。そのため、一般病床をさらに減らして医師、看護師の割り当て分を確保する必要があります。
極論をすれば、コロナ患者を10人受け入れるなら、15、16人分の一般病床を閉鎖する必要があると推定されます。一般病床を閉鎖しない場合、看護体制が手薄となり、医師・看護師の過負担が激化することになるでしょう。
(一般病床の患者を強制的に退院させることは許されるか?)
一般病床で入院している患者には、入院不要な人は退院させるべきでしょう。しかし、高齢者の場合、社会的に行き場の無い人を無理に退院させた場合、事件事故に巻き込まれる可能性があります。各地方自治体や老人介護施設とも連携して対処する必要があるでしょう。しかし、コロナ騒動で地方自治体も老人介護施設も疲弊(ひへい)していますので、どこまで連携がうまくいくか疑問です。
さらに経過観察が必要な一般患者を退院させた後、急変した場合の支援体制がありません。一般患者を犠牲にしてまでコロナ病床を確保するべきかどうかは、十分に検討する必要があるでしょう。
(まとめ)
「東京都内には、10万病床あり、コロナ病床は3,500病床をさらに増やせばいい!」という意見がSNS上で良く見かけます。雑誌等にもいろいろな立場の方がその旨の発言をしています。
しかし、現場の病院では、外来診察、一般入院、緊急手術、ICU(コロナ以外)などでも多忙の状態であり、それぞれの病院の財政事情は厳しい場合が多いと思われます。
そもそも一般病床に関して、現在の病床数を今後数年間で大幅に減らすように厚生労働省が指針を明示しています。わざわざお金をかけてコロナ病床を増やしてもコロナ収束後には、財務的にお荷物になることを分かっている訳ですから病院側が協力出来ないのは、ある意味当然だと思います。もしも厚労省が誤解だと考えるなら、誤解を解くための努力をするべきでしょう。
(厚労省を責めるつもりは無いのですが、政策を実行するタイミングが悪すぎです。)
(最後に)
自分が病院経営者になったとして、コロナ病床を設置しようとした瞬間に、上記の通り、様々な問題が噴出します。しかも対処に失敗すると、看護師が一斉に離職したり、医師が過労で倒れたりします。さらに赤字がかさめば、病院が倒産することになるでしょう。
コロナ病床を増やす努力は続けるべきですが、感染者増加を押さえ込むしか方法が無い、と私は考えています。
この記事は、新型コロナウイルスに感染した感染者のうち、中等症以上の入院用ベットが増やせない理由を取り上げた記事です。なお、医学的な見地からの意見ではなく、あくまでも個人的な見解です。
(東京都における満床状態)
2021年1月6日19時45分現在の東京都が発表した資料によれば、東京都内における感染状況は以下の通りとなっています。
入院中:3,090(重症者113)
宿泊療養:924
自宅療養:4,901
入院・療養等調整中:3,516
現在、コロナ病床として東京都が確保している病床数は、3500床です。患者の平均入院期間を14日としても1日250人の新規患者の受け入れが限界となります。
東京よりも医療サービスが貧弱な神奈川県、千葉県、埼玉県での患者急増もあり、完全に満床の状態に突入したと判断して良い状態になっています。
(コロナ病床を設置するためにはいろいろな準備が必要)
コロナ病床を設置するためには、各種報道や資料などから下記のような準備が必要となると予想されます。
1)医療スタッフ(医師、看護師、医療技師等)に対する感染予防(専門教育)の実施。
2)コロナ治療に必要な薬剤、医療機器の設置、増設。
3)医療資材(ベットシーツ、防染衣、医療用マスク、使い捨て医療器具など)。
4)人員の配置。
5)病室、換気装置の工事(感染予防として)。
6)霊安室、遺体保存用冷蔵庫の増設。
7)特別予算の確保。コロナ関連事務担当者の配置。
(通常の病院機能について)
本題に入る前に病院(第2次救急レベル)の持つ主な機能は、以下の通りです。
1)外来診察(平日、休日に診察により病気や怪我の状態を診断したり、投薬を処方する)
2)入院治療(経過観察、投薬治療、手術など)。
3)リハビリテーション(体力の回復、筋力の回復を目指す)。
4)救急救命(緊急治療、緊急手術)。
5)検査、解剖、研究部門。
上記の部門に医師、看護師、医療スタッフ、事務スタッフを配置し、予算と作業場所(病室を含む)を割り当てることで病院として機能を働かせています。
それでは、大きな課題から検討していきたいと思います。
(大戦略の策定)
まず検討しなければならないのは、感染症に対応出来る医師、看護師を確保できるかどうかです。
医療スタッフにも専門分野、得意分野があります。感染症についての対処ができる医療関係者を多数確保する必要があります。
例えば、10病床増やす場合、看護師を8時間勤務4交代としても最低4人できれば6人配置する必要があります。医師も最低1人増やす必要があります。検査や作業支援の医療スタッフも必要です。
上記の部署から人を移動させると元の部署の業務が過負荷になります。通常診察を中止したり、コロナ以外の入院制限を実施する必要があるでしょう。
そして、最大の問題は、病室の工事やコロナ関連の医療資材、医療機器の購入代金をどうやって工面するかです。政府や自治体から補助金が出る場合でも条件面を精査する必要があります。赤字のまま、患者のことだけ考えて行動すると、病院が赤字倒産する危険性が出てきます。
上記にも記載しましたが、遺体保存用冷蔵庫は、特殊用途のために金額も高額ですし、電気代も非常にかかります。患者急増=>遺体急増となる可能性があり、その費用や工事、搬出先との連携も重要となります。
(従来の治療中(療養中)患者の安全確保)
コロナ患者を受け入れない病院に対して批判する人がいます。しかし、コロナ患者を病院の一部で受け入れる、ということはクラスター感染の確率を高めることになります。
入院中の患者の多くは、感染症に対する免疫力が低下している場合が多いと思いますので、コロナ患者を受け入れることは大きなリスクを背負うことになります。
病院内で大規模なクラスター感染が発生した場合の鎮圧方針を具体的に明確に出来なければ、その病院でのコロナ患者の受け入れは難しい、と判断できます。
(他部署からの転任で感染症治療に対処できるのか?)
十分な訓練期間も訓練機会も無いままで、一般診療や病床管理を行なっていた医師、看護師をいきなりコロナ患者の対処に投入しても良いのか?、という倫理的な問題があります。
筋を通すなら、座学と実技、検定試験を行なって、コロナ患者に対する対処を適切に行うことが出来ることを確認してから行うべきところです。現場で業務を通して覚える(いわゆるOJT)には、感染するリスク、感染した後の後遺症などのリスクを考慮すると、リスクが大きすぎるでしょう。
(外来診療を中止しても良いのか?)
一般外来診療を中止したり、制限すると、他の病院の外来診療に患者が殺到するリスクが発生します。また、診断が遅れて病気や怪我がひどくなることも予想されます。
日本は後期高齢者が急増する直前の状態です。コロナが無くても外来診察を受けたい患者が増加する傾向になっているはずなので、外来診療を制限したり、中止したりした場合、その地域の医療サービスレベルが低下することが予想できます。
(一般入院ベット数を削減してでもコロナ病床を増やすべきか?)
一般病床を減らして、コロナ病床にする場合、物理的なベットと病室を転用することは工事さえ出来れば、可能でしょう。問題は、対応する医師や看護師を確保できるかです。
医師、看護師の増員が出来ないなら、一般病床の担当医師や担当看護師を割り当てることになります。しかし、コロナ患者は一般患者よりも看護を手厚くする必要あります。そのため、一般病床をさらに減らして医師、看護師の割り当て分を確保する必要があります。
極論をすれば、コロナ患者を10人受け入れるなら、15、16人分の一般病床を閉鎖する必要があると推定されます。一般病床を閉鎖しない場合、看護体制が手薄となり、医師・看護師の過負担が激化することになるでしょう。
(一般病床の患者を強制的に退院させることは許されるか?)
一般病床で入院している患者には、入院不要な人は退院させるべきでしょう。しかし、高齢者の場合、社会的に行き場の無い人を無理に退院させた場合、事件事故に巻き込まれる可能性があります。各地方自治体や老人介護施設とも連携して対処する必要があるでしょう。しかし、コロナ騒動で地方自治体も老人介護施設も疲弊(ひへい)していますので、どこまで連携がうまくいくか疑問です。
さらに経過観察が必要な一般患者を退院させた後、急変した場合の支援体制がありません。一般患者を犠牲にしてまでコロナ病床を確保するべきかどうかは、十分に検討する必要があるでしょう。
(まとめ)
「東京都内には、10万病床あり、コロナ病床は3,500病床をさらに増やせばいい!」という意見がSNS上で良く見かけます。雑誌等にもいろいろな立場の方がその旨の発言をしています。
しかし、現場の病院では、外来診察、一般入院、緊急手術、ICU(コロナ以外)などでも多忙の状態であり、それぞれの病院の財政事情は厳しい場合が多いと思われます。
そもそも一般病床に関して、現在の病床数を今後数年間で大幅に減らすように厚生労働省が指針を明示しています。わざわざお金をかけてコロナ病床を増やしてもコロナ収束後には、財務的にお荷物になることを分かっている訳ですから病院側が協力出来ないのは、ある意味当然だと思います。もしも厚労省が誤解だと考えるなら、誤解を解くための努力をするべきでしょう。
(厚労省を責めるつもりは無いのですが、政策を実行するタイミングが悪すぎです。)
(最後に)
自分が病院経営者になったとして、コロナ病床を設置しようとした瞬間に、上記の通り、様々な問題が噴出します。しかも対処に失敗すると、看護師が一斉に離職したり、医師が過労で倒れたりします。さらに赤字がかさめば、病院が倒産することになるでしょう。
コロナ病床を増やす努力は続けるべきですが、感染者増加を押さえ込むしか方法が無い、と私は考えています。
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